NHK番組の異質さ

NHKで 『ミラドール 絶景を聴く』という番組を観ました。 単純に面白い番組でした。 が、それ以上にこの番組の異質さに目が行きました。 それについて、少しだけ書こうと思います。

あらすじ: ヒューマンビートボックスをしている男性がナビゲーターとなって、 その場所にある音と共演をしていきます。 例えば、最初の舞台は阿寒湖という場所でした。 ここでは、地面から噴き出す火山ガスが絶えず コポコポという音を奏でています。 この音に対してヒューマンビートボクサーの男性が 「一つ一つの泡の音には噴き出す深さや場所によって違いある」 といった話をしたあと、男性が奏でるビートとその場所で フィールドレコーディングされた音でセッションを行います。 今度は養殖の牡蠣を育てている漁場へ行き、 網を揺らすときの音を聞いて 「パーカッションのような音だ」と話して、またセッションをします。 次はアイヌの伝統楽器工房へ行きます。

…その繰り返しで30分番組の番組を1つ作っています。

これの何がすごいって、 この番組をどこかのジャンルに分類しようとしたとき、 該当するジャンルがどこにも見つかりません。 そして、私の文章力もあるのですが、 あらすじを文字で読んでもなにが面白いのかさっぱり伝わりません。 ヒューマンビートボクサーの男性が自然の音という非正規なものを、 ビートボックスという既製の音に当てはめて セッションをするという面白さなのか、 それとも映像的な美しさなのか、 編集にいろんな要素のバランスなのか、 まだ自分の中で答えが出ません。 最後に曲を作るという構成はありますが、 それ以外で特に盛り上がりがあるわけでもありません。 しかし、有意義な30分だったなと思わされる番組でした。

NHKはこういった異質な番組を許容する土壌があります。 ある意味、どの民放局よりも尖っているのではないでしょうか。

尖っている番組として最近話題になった民法の番組にフジテレビで放送された 『ここにタイトルを入力』というものがあります。 テレビ番組としてよく見るコンテンツである「トーク番組」「ロケ番組」「恋愛ドラマ」といったものに 「演者がダブルブッキングしている」「本カメラの映像が使えない」「予算を前半で使い果たした」 といったワンエッセンスを加えて、ほかで見たことないような (、一見すると番組として成立してはいない、)映像を見せてくれる番組でした。 ド深夜だからこそできた、テレビ好きに向けたマニアックな企画と、 特番だからこそできた、どう見ても予算に見合わない手間暇のかかった番組でした。

少し前になりますが、テレビ朝日で深夜に放送されていた 『あのちゃんねる』という番組も変わった番組でした。 放送内容に共通しているのは「元ゆるめるモ!の『あの』が出演していること」だけで、 粘土細工を作ったかと思えば、次のシーンではエキストラのおじさんとミニコントをして、 また次の場面になったら食レポが始まります。 バラエティー番組の企画としてはどれも定番なのですが、 あのちゃんのテンションがカメラ前とは思えない低さなので、 全体的になんとも言えない緩さの映像が流れ続けます。

『ミラドール 絶景を聴く』の異質さは、 このような民法の尖った番組とは異質さの方向性が異なっています。

まず、企画の時点では面白さの保証が誰もできません。 番組企画を上に説明して、そして承諾を得るのが民放だと とても困難であると予想されます。

そして、どうやったらこんな番組が思いつくのかも想像がつきません。 多くのテレビ番組企画は既存の何かに対して 足し算、引き算、掛け算をしていると思うのですが、 この番組をはじめとするNHKの企画には何がもとになっているのかわからないものがあります。 まるで、優れた画家の作品が何にインスピレーションを 受けたのか全く分からない独創性を持つようなものです。 この公共放送の持つ 「面白いとかそういうのを目指しているではない」と 「映像としてみたときに民法に作れない優れている」の両立した番組を作ることは、 NHKの大きな存在意義だと私は思っていますし、 これからも私はNHKにそれを期待し続けます。